1922-1994 盲目の女旅芸人を描いた瞽女シリーズ等で知られる洋画家、岡山県生まれ、東京美術学校を卒業、青森県津軽地方を旅するうち、瞽女を知り、越後、信濃路のご女宿を訪ね歩いて瞽女シリーズを描く、昭和45年10年間制作し続けた作品を「越後瞽女日記展」として文芸春秋画廊で発表し、独自の主題、画風で注目される、同46年安井賞展にて安井賞佳作賞受賞、同50年代からは自らを道化師に重ね合わせ、現代の孤独を描くシリーズ、明治期の吉原に取材したシリーズなどを描いた、初期には西洋の伝統的な空間表現、陰影法を用いて静物画、人物画等を描いたが、渡欧により風景の中にデフォルメした人物が散在する主想的な画風に変化し、瞽女シリーズでは遠近法、陰影法を無視し、人物像にも大胆なデフォルメを加えた感傷的な画風を示した

斎藤真一「雪の津軽 越後瞽女日記」板に油彩 SM 1982年作 共シール
本作《雪の津軽 越後瞽女日記》は、洋画家・斎藤真一が1982年に制作した、「越後瞽女日記」シリーズの一作です。雪の降りしきる津軽の寒村を舞台に、静かな哀愁と人間の内なる情感を描き出しています。画面中央には、赤い衣をまとった二人の女性が肩を寄せ合い、凍てつく道を進んでいます。その姿は、越後や信濃を旅した盲目の女旅芸人「瞽女（ごぜ）」たちを象徴しており、彼女たちの過酷で孤独な生を想起させます。画面手前には、赤いショールをかぶった女性が静かに目を閉じて佇んでおり、その表情はまるで祈りにも似た静けさを湛えています。背景には、雪に埋もれた木造家屋が並び、遥か遠くには海のような水平線が広がります。空から舞い落ちる大粒の雪は幻想的であり、画面全体に沈黙と詩情が漂っています。赤と白の対比が際立ち、冷たい雪景色の中に、瞽女たちの存在がひときわ鮮やかに浮かび上がっています。

斎藤は1922年岡山県に生まれ、東京美術学校を卒業後、青森県津軽地方を旅する中で瞽女の存在と出会い、彼女たちを主題とした作品群を10年以上にわたって描き続けました。本シリーズは、1970年の「越後瞽女日記展」で大きな注目を集め、以後の画業の中核となります。瞽女シリーズでは、写実的な遠近法や陰影法を排し、象徴的で感傷的なデフォルメ表現を用いて、見る者の心に深い余韻を残す作品世界を築き上げました。この絵に表現されているのは、単なる風景でも人物画でもありません。それは、過酷な運命を生きた女性たちへの哀惜と敬意、そして雪に包まれた北国の静けさの中にこそ宿る、祈りにも似た人間の美しさなのです。